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黒蝶貝彫刻士 Tokerauさん


黒真珠の貝を見事に彫刻し、 アクセサリーに仕上げるのは彫刻士、いやアーティストのトケラウ / Tokerauさん。

“外国に住む親族のためにプレゼントとしてあげるために、

クック諸島に由来する何かを送りたく、

身の回りにあった黒蝶貝を魚釣りのフックの形に掘ったのがすべての始まりさ“

 

両親はクック諸島の北諸島の一つで、黒真珠養殖が盛んなマニヒキ島出身。

母は伝統的なココナッツ繊維の織物を作り、父は木彫り士。

幼いころから母親に勧められ、

気が付いたらいつも人物画を書いて過ごしていた少年時代。

そんな人生談をしながら、

あっという間にすらすらと

愛おしく寄り添いながら泳ぐ2頭の亀を彫って見せてくれた。

きっと根っからのアーティストなんだ。

10代の後半をスワロー諸島で過ごした。

美しいサンゴ環礁に囲まれた島で、住むのは島を見守り、

付近を行き交う船の交通整理と見張り番として国から送られていた管理人とその付き添い家族のみ。

その仕事を引き受けた父を助けるために、2年間住んだまさに海の孤島。

タヒチからサモアへ抜ける航路となっているスワロー島の周りを通る船のレジスター業務、

ここはクック諸島だぞ!と宣言し、

変な侵入者が入ってこないように島を守る役目。

「父が厳しかったから、朝から晩まで毎日結構忙しく動き回っていたよ。」

何から何まで自分たちで行う孤島での暮らし。

島にあるのは、自分たちの住む小さな小屋のみ。

あとは、時々通り過ぎる船以外、誰もいない。

「でも、自分たちの周りには野生動物たちにいつも囲まれていて、

夢のような景色が広がっていたよ。

さみしいと思ったり、つまらないと思ったことは一切なかったよ。」

輝くラグーンと、少しの陸地。その外に広がる大海原。

ここでは人間が”自然の中に住まわせてもらっている”というダイナミックな手つかずの自然環境。

様々な鳥が飛び交う。

そして海に入ると、”まさに野生の天国”という世界が広がっているよう。

日々魚たちと戯れ、

ウミガメと一緒に泳ぎ、ボートに乗るとイルカが近くに寄り添って遊ぶように一緒に泳ぐ。

また、夏にはザトウクジラが直ぐ近くを回遊する姿を見ていた。

「あの時に見た風景、大自然との関わり、

そして動物たちとの出会いの強烈な思い出が今の自分の根本にあるのさ。

だから、今でもこうやって亀とか、クジラの絵を彫っているけれど、

これはすべてスワロー島で自分が見た時の記憶をそのまま表現しているんだ」

写真)ラロトンガ島から825km北西方向に位置するスワロー環礁 

やさしい顔で語るTokerauさん。

ラロトンガ島の山を望む静かなアトリエで、

まるで瞑想をするかのように、黒蝶貝と向き合う日々。

黒蝶貝は、両親の出身であるマニヒキ島から

真珠を作ることができなくなり不要となった貝をドラム缶で送ってもらう。

ごつごつした塊の貝を

一つ一つ、丁寧に、根気よく手作業で綺麗にする。

”黒蝶貝も生き物だろう。

ひとつひとつ、形も違うし、輝いている場所、そして輝き方も違うんだ。”

”貝もいろいろな島のもので試してみたけど、

島によって模様や輝きの向きや、入り方が異なるんだ。

恐らく潮の流れや、強さによって貝にも島の個性が付くんだろうけれど、

一番マニヒキ島のものがアクセサリー作りには適していたんだ。”

貝に対する愛情、そして貝一つ一つにまるで語りかけるように丁寧に扱い、

その自然が作り出した美しさを最大限に生かしてアートを完成しようという

トケラウさんの心がよく表現できているのだろう。

自分で考え、試行し、

特注した機械たちで、一つ一つのステップを加工し、

そして、ようやく貝の形を切り出す。

Tokerauさんの美しいアクセサリーは

最初は頼まれた人に個人的に作ってあげるという規模だったけれど、

徐々にクック諸島を訪れる観光客のお土産として、

そして海外で暮らすクック諸島マオリの親族への手土産として、口コミで広がった。

立派なお店も出した。

今はお店やツーリストの需要に対応するために、

日々お土産として人気のあるデザイン、”いかり”や”くじら”のアクセサリーを彫っているという。

「でも、本当はね、自分でクリエーション&イマジネーションして

黒蝶貝を彫って自分自身の作品を作りたいんだ。

今は時間も心も余裕がないけれどね」

彼のお店の壁には、美しい、そして優しさ溢れるクジラの絵も見られた。

このようなクジラをTokerauさんは実際にスワロー環礁で日々見てきたんだなあ、と想像すると夢が膨らむ。

私もいつかスワロー環礁に行ってみたいな。

そのクジラの背後にはマオリの人々の伝統的なモチーフが並ぶ。

まさにTokerauさんはクック諸島の大自然の恵みと

マオリの伝統的なモチーフを見事に融合させたアーティストなんだなあ、と思う。


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