クック諸島をベースに、クジラの研究をする海洋生物学者のナン・ハウザー/ Nan Hauserさん。
ラロトンガ島にて21年間、クジラの観察&リサーチを継続しています。
「昨年(2017年)は、ザトウクジラが例年より多く目撃されたクジラの当たり年だったわ。」
通常は、6月下旬ごろからクック諸島近海にて目撃されるザトウクジラが、
今年は8月に入っても、まだ20頭余りしか確認できていないとのこと。
「今年は、本当におかしいわ。その明確な理由は特定できないわ。
でも気象変動に何らか関係しているのではないかとは予想しているわ」

南極の豊かな海で山ほどのオキアミや小魚を食べ、たくさんの脂肪を蓄える。
それをエネルギーとして、多く離れたクック諸島近辺の海までの数千キロもの長距離移動の旅に出る。
安全で暖かい海を求めて北上し、
メイティング、そして出産。
子育てをして、小クジラがしっかりと泳げるようになったところで、また南極の海に戻る。
「ザトウクジラたちは南極を離れている 6ヶ月から8ヶ月の間、断食をしているの。
全く食べないから、南極に戻る頃には体重が約3分の1も減っていることもあるのよ。
45トンのクジラが、30トンになるのだから、それは目でもはっきりと分かるわ」

気候変動により、海水の温度に変化が生じる。
それはクジラたちの餌であるオキアミや小魚たちの動きにも影響が及ぶ。
巡り巡って、それはザトウクジラたちが食べ物を求める場所が異なっているのかもしれない、とナンさんは語る。
「今年、クック諸島近辺でザトウクジラの目撃がかなり遅れた理由は、
クジラたちが南極で食料を蓄えることが難しく、なかなか出発することが出来なかったのでは 」と、ナンさんは予想する。
食物連鎖。
海の中の大きな生物、クジラ。
海の生物たちの食物連鎖の頂点に立つ。
クジラたちは今まで何世紀もの間、毎年餌を食べに同じ時期に場所に戻る。
しかし、今年はその場所に餌がなかったのではないか。
もしくはほとんど食べる魚がない状況になっていた 。
「そんな中、ザトウクジラたちは一生懸命、体力をつける為にいつもは行かない広範囲の海を巡りながら
お腹を満たして、旅立ちの準備をしていたのではないか」
とナンさんは続けた。

まだまだ解明されていないクジラの詳しい生態系。
その中でもナンさんはクジラ同士のコミュニケーションの取り方を研究をしている。
「たくさんクジラを見ることができる当たり年もあるし、
逆にクジラの目撃がぐっと少ない年もあるわ。
それがどうしてなのか、私たちは誰も謎を解けないわ」
今日もナンさんは、島の人々から届くクジラの目撃情報をもとに、
ボートに乗り、ラトトンガ島の周りの海を巡りクジラを観察し、研究を続けています。